~理事長寸借詐欺に遭うの巻 その①~

とある日の夕方、コンビニの駐車場で車の運転席に乗り込もうとしたところ突然男に話かけられる。

男『すみません、どこまで行かれますか?』

私『え?今から家に帰るところですが…すぐそこなんで。』

パッと見た感じ三十代半ば位の男で手には銀色のキャスター付きの旅行鞄、目が若干ぎょろっとしているのが特徴的だった。

男『実はやっちゃいまして…。』

私『どうしたんですか?』

男『実は旅行で新潟県の月潟に行っていたんですが、公衆トイレで携帯と財布を置き忘れて気付いて戻ったんですけど無くなってて、警察にも行ったんですけど…以下略』

 

どうやらヒッチハイクをしながら新潟県の月潟からここまで来たようでヒッチハイクで博多まで帰るつもりらしく、どこか次の車を捉まえられそうな所まで乗せて欲しいとのことだった。

私は少し考えて『分かりました。ちょっと待ってください。』と助手席と後部座席に散乱していた商売道具を片付けて彼の荷物を後部座席に、彼を助手席に乗せた。

 

車は家とは反対方向に走り出す。私自身も国外を旅をしながらパフォーマンスをしていた頃に旅先で多くの人に助けられたという経験もあり、出来る範囲で協力が出来ればと思ったのが理由だった。

車内で男は人見と名乗り、これまでの経緯を詳しく話し出した。

 

警察に行ったのだが博多まで帰る交通費は貸して貰えなかったこと、役場にも行ったのだが申請やら待ち時間の為、諦めたこと、新潟県から富山県まで来る過程で彼を車に乗せてくれた人の話や援助してくれたという方の名刺を見せながら男は話す。

コンビニで乗せてくれそうな人を探して周囲を長時間うろついていたら不審者がいると通報された話や食事を奢ってくれた人の話、博多までの電車代を出すと言ってくれた人の話…これは悪いと思って辞退したらしい。

 

私の方からもいくつか質問をした。

旅行先での話を聞いてみたり、博多の話を聞いてみたりもしたが、主に問題解決が出来ない物かと思い、覚えている電話番号はないのか?勤め先は?電話番号が分からなくても私の携帯で調べれば電話番号位出てくるだろうから同僚とかに連絡してみては?実家の番号位覚えてるでしょ?お嫁さんやご家族に連絡してみては?といったことも当然質問した。

しかし独身で家族は熊本の大震災で亡くしてしまい身寄りがない、勤務先についても旅行前に辞めてしまって元同僚には頼めそうな人も居ないとのこと。

さらには明日、新しい勤務先である新規オープンするカフェの研修があるので明日までには博多に戻りたいとのことだった。

富山から福岡県の博多まで…夕方のこの時間からヒッチハイクしながら帰るのはどう見ても不可能である。

 

正直、八方塞がり過ぎる話に違和感を抱きながらももし本当だったら…と思うと車は幹線道路を外れて行ったのであった。

 

~理事長寸借詐欺に遭うの巻 その②~に続く。